「修羅の終わり」 貫井徳郎 講談社文庫 1095円

 「慟哭」文庫版が、各地の書店で売れまくっている貫井徳郎。ちょっと前までは知る人ぞ知るっていうミステリマニア御用達の作家やったのに、今や各書店で平置き特集状態。このブレイクはなぜに?と思い、ネットを探索すると、どうやら書店業界が協力して仕掛けた結果らしい。まあ、貫井さんの文章は、マニア以外のおもしろ小説読みにも耐えうるだけの筆力があるから、仕掛けられたこととはいえ、ブレイクは喜ばしいことだ。 かくいう僕も、ブレイクしてから「慟哭」を読んだクチなのだが。

 「修羅の終わり」は、「慟哭」と近似性のある作品だ。僕は「慟哭」の叙述トリックは割と早い段階でわかってしまったのだが、それでも彼の文章力のために最後まで面白く読めたのだが、今作も3つの話が同時並行的に進み、おそらく最後に3つの話が絡み合うのだろうと予測がつく。
 で、・・この先はネタばれになってしまうかもしれんが・・・

 その期待はものの見事に破られてしまう。なんと、3つの話のうち、1つは全くのミスディレクション的扱いをされてしまうのだ。絡み合うのは2つの話だけ。なんやそれー。それぞれの話が非常に骨太で読み応えのあるものなので、何かもったいない構成。読み終えた直後、クライマックスの意味が分からず、ネットで他人の感想を検索して読んで、やっと朧気に著者の狙いがわかった。
 ただ、狙いを理解したとたん、「なんちゅー大胆なこと考えるんやー」と著者の発想に心から感心してしまった。あっぱれ、あっぱれ。

で、結論的には、

評価→○。文庫本で約800ページある。時間をかけて読んだ末の結末に、わけわからん人・怒る人・びっくり感心する人、の3分されるだろうが、僕は推す。文章のうまさはハンパじゃない。構成の奇抜さは好みの分かれるところだが、すっきりしない終わり方にかえって余韻を覚え、僕的には、「慟哭」よりも印象深い作品となった。

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